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とにかく歩いて目で見て堪能する

ボッチ城series壁田城

中野市壁田[へきだ]
信濃国高井郡


壁田城_Prologue
この付近は千曲川を挟んで西が水内郡、東が高井郡となる。犀川千曲川が合流する付近から新潟県境までと広大。
高井郡南端の霞城から車で北上して40分、まだ高井郡の中間、とにかく大きな郡だ。
根拠は不明だが"千曲川対岸にある替佐城と並んで武田の対上杉の城"と紹介されている。
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不思議な山で、替佐城が連続する里山の1つを選んだ城だが、壁田城は千曲川に沿った単独の細長い山で南北2.8kmもあり、形は背ビレの如くなる。

さて!どこから上ろうか..と見やる。
西斜面は千曲川に削られた急峻。そして通常であれば南北の尾根から上るものだが、山体が大きいため、一先ず中央の東麓から直接上ることにした。
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Startは天文元年に創建された国昌寺、調べるとここから2ルートがある。北ルートは江戸時代頃に石階を整備したとあり新道かもしれない。本郭へ直に行くもので今は藪。南ルートが恐らく追手道となろう。舗装された林道から別れて城の南端へ通じる。
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山の東斜面を見ると、林道が縦横無尽に通る。
急な地形で城の下には谷が2つあり、林道はそこを避けるように造られていた。
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軽の四駆なら通れるような道で、城と関連がないか念のため全部歩いてみた。急なのでコンクリート舗装され、一部区間は土のまま。秋は落葉でスリップ注意すべし。
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壁田城_01
縄張り...
背びれ状の山頂に主郭があり、長い尾根沿いに来る敵を防ぐための連郭式。馬ノ背状の平らに近いため[堀切+郭]³...と続くを基本とす。
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本郭の下に帯郭があり、信濃国では珍しき。ここでは南に回り込まないと本郭に入れない仕様。南東の下には池とセットの館のような遺構があり「下ノ城」と名付く。

壁田城は、これまで千曲川沿いで見てきた城と異なると感じた。私は新鮮で好きかもしれない。畝状堅堀といい、越後国の匂いを指摘する人もいるが同感だ。こうなると直ぐに「上杉謙信が..」と言い出す人もいるが、ここでこの地を治めていた高梨氏を紹介する。

☞高梨摂津守という人がいる
越後国にも所領を持っていた。
永正7年(1510)に関東管領上杉顕定越後国へ攻め込んだ際、長尾為景に援軍して長森原の戦いで顕定を討ち取った者。

永正7年7月付,長尾為景から伊達尚宗宛
「信州衆高梨.小笠原.泉.市川.島津出勢これあり,関東衆追散被申候」とあり、この頃の北信濃の主要な勢力が分かる。
彼は長尾為景の祖父であった。よって上杉謙信の曾祖父となる。戦の後に長尾為景信濃守に補任され、高梨氏を支援して信濃国まで出兵していた。後ろ楯として高梨氏の伸張を助けたのだろう。そんな時代背景での壁田城と認識する必要がある。
壁田城は史料に出てこない。
この地域は1400年代~1500年前半、高梨氏の支配下で多くの戦があった。周辺国人はもとより、室町幕府信濃守護小笠原、越後守護上杉にまで攻められている。その為には堅固な城が必要となろう。
しかし領域を見ても鴨ヶ嶽城のほか壁田城ぐらいしか堅城がない。他は館か砦のようなものばかり。そう考えると壁田城は高梨氏による城とするほうが素直だろう。


壁田城_02
さて国昌寺から林道[追手道_南道]を上がって行くと、林道の交差点となる平地に到着、駐車場になるだろう。
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その脇に異様な池があった。
こんな山中に..
周囲を見ると、館でもあったと思われる地形で、東に沿った小尾根には複数の堀切があった。
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林道を歩いている途中で水が染み出している区間があり標高は425m。籠池は標高420mなので滞水層がこの付近で広がっているのだろう。
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「下ノ城」から細尾根を上がって行くと、すぐ城に到着した。パッカリと割れたような堀切④が遮るが、今は堀切底を通って城内へ入れる。
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壁田城の見学を終えて思った事だが、恐らく壁田城は堀り切っても脇に城道や虎口を設けず、木橋や梯子で堀切を渡り、完全に分断していた城ではなかったろうかと思った。


壁田城_03
次に本郭の南にある5,6,7郭へ進む。
う~ん、見た瞬間にガッカリ..
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技巧に乏しい単調な古い縄張りで、広く長い1m程の段差により4区画から成る郭。陽当たり良好なので屋敷を置いたのだろう。唯一堀切④側に土塁を設けていたのが救い。
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武田前線説?に疑問を持ちつつ
本郭の方へ歩むと堀切③があり見上げる..
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はたして別時代に変わった?と思えるほど、ここから先は技巧に富んでいた。
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堀切③は外法に土を盛って堀切を造っていた。盛土なので押えにした石積が見られる。または石積にすることによって外法側を急にし、降りたら戻れなくする技なのかもしれない。
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内法は高低差が5mで上は帯郭となる。更にその上に高低差5mの本郭があり、いわゆる二段構え。
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堀切③は後に付け足した可能性が高く、ここから北側の縄張りには、至る所で改修痕らしきが見られた。


壁田城_04
地質
見るからに軟らかい土である。
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砂質粘土で、今井城と替佐城を含めて、周辺が古代に湖だった時に砂や灰が堆積した層が、逆断層によって褶曲しながら盛り上がった山。壁田集落の真下には活断層が眠る。
解せないのが帯郭にある大岩
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これだけポツンと鎮座し、大きさからして運ぶは不可能。地球の力に神のなせる業かと思った。他にも1m以上の石が点在し、悠久の自然の姿を想像す。堀切の石積は、混在していた岩を小割ったものであろう。
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掘り易い土なので、堀切をもっと深くすればと思うが、高低差が統一されていたのが規格的で面白い。必要な事以外はやらないといった義務で普請した城が今に残ると邪推できる。


壁田城_05
本郭と帯郭
全部が盛土によって造られた二段の郭で、高低差を測定すると、帯郭の土塁が4.9m,本郭の土塁が4.9mで統一されていた。
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虎口は無く、梯子で上がった所に小さな門があったと思われる。南東角に櫓台跡らしきがあり、その脇に門があったと想像(今の石段)。
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帯郭の北東には、後に追加したとみられる郭を断ち切った堅堀があり美ラインが今も残る。
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東斜面に3本ある畝状堅堀は、笹藪に覆われ上と下から撮影したがよく判らない..ゴメンなさい
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壁田城_06end
堀切①と②とゼロ
帯郭から北は、郭と郭に2m程の高低差を持たせて、堀切と郭が2つ続く。
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堀切①は元々あった平らな郭を後で分断したような堀切、堀切②は二重堀切と思われるが中央の盛土が潰れ埋まっている。
(下の写真は堀切①)
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(下の写真は堀切②)
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そして最も北側には、盛り上がった土の山がある。実はこれも古の郭で、前面にはもう1本堀切があったが、駐車場のために埋められていた。整地で出た土を郭の上に置いたままなのだろう。これは酷い..
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(写真の手前が駐車場、堀切は消滅)


おわりに
全体の縄張りを見ると、本郭に対して南に屋敷の郭、北は連続した堀切+郭を設けていた。明らかに北へ備えた城と分かる。馬瀬状の尾根はまだまだ北には続くので、堀切+郭は更に増設が可能である。しかしここで止めた。
高梨氏が武田に敗れて越後に去った後、武田信玄から山田豊前守が壁田を拝領した。彼は恐らく高梨氏の一族か、数十年前高梨氏に討伐された山田氏の生き残りだと思われる。
豊前守は上杉謙信が防衛を堅めた飯山城に対する前線として、壁田城を守ることを期待されたのだろう。境目の城として堅固にするよう命じられ、北側の強化を主に堀切などを番普請として行ったのだろう。
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